K氏が病気休養で自動車の仕事から離れる前に、開発を手がけていたもう一つの車があった。昭和三十八年に発売されたコルト・シリーズの後継車で、ちょうどこのころから社会問題となりはじめた排ガス公害への対策を講じた新エンジンを搭載し、ボデーも足まわりも一新した小型車で、先行して開発が進められていたA90の上級車種にあたるものだった。デザインは名古屋の意匠部が担当したが、K氏の考えでA90同様イタリアのジュジアーロにも依頼した。当時、ジュジアーロはベルトーネやギアなど、いわゆる力ロッツェリアとよばれるイタリアのカーデザインおよびボデー製作メーカーで経験を積み、この時代に手がけたアルファロメオ・カングーロをはじめ一連のスーパーカーのデザインで売り出し中の新進気鋭のデザイナーで、独立して、宮川秀之という日本人と新しいカロッツェリア「イタルーデザイン」を興したばかりだった。彼はすでにベルトーネ時代にマッダールーチェー500、ギア時代にいすゞ117クーペなど、日本車のデザインを手がけており、K氏が仕事のパートナーとしてジュジアーロを選んだのは賢明であった。
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